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Tanpakushitsu Kakusan Koso 1998 Sep;43(11):1487-91

Regional group, the inbred strains, and the mutational strains of medaka

. [Article in Japanese]
Wakamatsu Y, Osato K
Review


メダカの地域集団・近郊系・突然変異系統

若松佑子・尾里建二郎
(名古屋大学生物分子応答研究センター)

I. 実験生物としての特徴

メダカは大きさから言えば脊椎動物としては最小の部類に入る。サイズが2〜3cm、性成熟まで3カ月、卵は透明で通年産卵、野生集団が日本のどこにでもいる、近縁種がアジア地域に広く分布している、などのことから、手軽で便利な実験動物として生物学のほとんどあらゆる分野で用いられてきた。最近ではゲノムサイズが哺乳動物の1/5であることも注目されている。

 研究が高度化すれば系統動物が必要とされるのは自然の流れであって、メダカには魚類では類を見ない多様な系統が開発され、保存されてきた。それらは4つに大別できる。

1)日本産の野生の地域集団系統およびアジア地域に分布する近縁種系統は種分化の初期過程の研究には絶好の材料である、
2)突然変異系統はゼブラフィッシュで有名であるが、これらは殆ど誘発突然変異である。メダカの自然突然変異系統の集積はその点でユニークである。これらの自然突然変異はさまざまに組み合わされ、コンジェニック系統に発展するなど、より高度の研究に用いられる系統が作出されてきた。トランスポゾンなども自然突然変異の利点を巧みに利用して発見されたものである、

3)多くの近交系統が開発されてきたが、魚類でこれだけ近交系があるのはメダカだけである。

4)トランスジェニック・メダカの系統化が始まっている。

 つぎに現在保存されている系統の概略について述べるが、これは5つの研究機関からのメモに基づいてまとめたので、記載についてはやや統一を欠いていることをお断りしておきたい。

II.系統保存の現状

1.野生集団と突然変異を中心とした系統保存



A.東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻
(1)保存系統の種類・数量

●野生ストック
Oryzias latipes(各採集地50匹前後)
南日本集団:東日本型(21地域)、山陰型(7地域)、瀬戸内型(16地域)、北九州型(4地域)、西南九州型(3地域)、琉球型(3地域)

北日本集団(14地域)
ハイブリッド集団(5地域)
東韓集団(3地域)
中国ー西韓集団(3地域)

●突然変異系統(各系統数十匹)
自然突然変異系統
(a)b遺伝子座:b、Bユ、Bca(キャロライナメダカ)、 bv、bd、bdl1、bdl2, bdl3bp

(b)その他の遺伝子座:i、ib、i-3、apt1、Da、gu、lf、pl、r、wl 
  (c)多重劣性同型接合体:b/b;gu/gu;lf/lf(T3)b/b;gu/gu;lf/lf;ibib;wl/wl (T5)、b/b;gu/gu;pl/pl;r/r (T4)、b/b;gu/gu;r/r;Xlf/Y+ (Qurt)、b/b;Xr/Y+ (シロメダカ)

誘発突然変異系統
(a)b遺伝子座
 同型接合生存性
 γ線または速中性子誘発:bs14、bs19、bg8
ENU誘発:bt17、bc1、bc2、bd2、bd3、bd4、bd5、bd6、bg12、bg13、bg15,   bg21
 同型接合致死性
  γ線誘発:bs9、bs19、bt15、bd1
(b)その他: ghp1、ghp2、rt、cc

●コンジェニック系統(それぞれ数十匹)Y-コンジェニック(Y-HNI/AA2-background、b-コンジェニック(B-HNI/AA2-background)

その他:近交系、O. latipes近縁種(アジア種)

(2)系統保存の組織、設備
 組織:系統保存責任者、系統保存担当者(技官1名)、 
飼育補助者(非常勤職員1名)
、  飼育設備:屋外-60lのプラスチックコンテナを約700個、
屋内-マウス飼育用のケージ数百個。

(3)系統の開発方法、保存方法、利用方法
開発方法
1) 野生ストックは、数十匹の集団で継代。屋外で、一つの採集地につき3世代(コンテナ3個)ずつ保存。代表的なものは、兄妹交配を行い、近交系化している。その過程で集団中に保存されてきた自然突然変異遺伝子の同定と分離を行っている。

2) すでに知られている自然突然変異から多重変異個体を交配で作成し、環境変異原のモニタリングなどのテスターとして有用な系統を開発。また、遺伝子解析が可能となるように、兄妹交配を行い近交系化。

3) 放射線や化学物質で突然変異系統を作成。

4) 自然または誘発突然変異遺伝子のうち主要なものについては、コンジェニック系統を作成。遺伝子近傍のDNAマーカーをとるために、主に北日本集団と南日本集団の間のコンジェニック系統を開発。

保存方法:継代保存。現在、精子の凍結保存方法を開発中、将来は継代保存と精子凍結保存を併用の予定。

(3)分譲依頼方法

問合せ・申込先:113-0033東京都文京区本郷7ー3ー1、
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 放射線生物学研究室
Tel: 03-3812-2111ext.4443 FAX: 03- 3816-1965、
E-mail: shima@biol.s.u-tokyo.ac.jp
料金 :当分無料 情報公開アドレス:なし
カタログ: 野生ストック(FAXなどで送付可)


B.新潟大学理学部自然環境学科
(1)保存系統の種類・数量

●野生ストック
 Oryzias latipes
  北日本集団(9地域)
  南日本集団(25地域)
  ハイブリッド集団(4地域)
  東韓集団(7地域)
  中国ー西韓集団(7地域)
 O. latipes近縁種(アジア種)
  O. curvinotus, O. luzonensis, O. mekongensis 、O. javanicus, O. melastigma 、O. marmoratus, O. celebensis

●近交系
Hd-rR, HO4C, HO5, HB12A, HNI-II, SOK-I, NCAH2, Hd-rR.rr

●コンジェニック系統
Hd-rR.YHNI, Hd-rR.YSOK,HdrR.YCHW, HNI.Da

(2)系統保存の組織、設備
 組織:教員2名
 設備:25度の恒温室(20m2 および10m2 各1室)と屋上を利用、人員:教員2名

(3)系統の開発方法、保存方法、利用方法
 利用方法:新潟大学理学部・自然科学研究科における研究および実習に利用している他、国内では信州大学、名古屋大学、東京大学、養殖研究所、前橋市など、海外ではアメリカ合衆国、ドイツなどに分与している。

(3)分譲依頼方法(随時相談に応じている)
 連絡先:〒950-2181 新潟市五十嵐2の町8050 新潟大学理学部自然環境科学科、酒泉 満 TEL/FAX: 025-262-6368 E-mail: sakaizum@geb.ge.niigata-u.ac.jp


2.近郊系を中心にした系統保存:放射線医学総合研究所
(1)保存系統の種類・数量

●近交系(純系)メダカ
世界で最初のメダカの純系は、兄妹交配を20世代以上繰り返すことにより、本研究所の兵藤ー田口泰子博士により作出された(最新の情報は文献1)。現在11余系統保存。内訳は遺伝的に異なる野性集団(北日本集団、南日本集団、朝鮮半島の野性集団)の個体から出発したもの8系統、ヒメダカの個体から出発したもの3系統がある。野生型体色のHNI系統は標準系統として多くの研究室で用いられている。それぞれ、アイソザイムパターン、体型、繁殖力、放射線に対する感受性、脳の形態、行動(無重力下での遊泳など)、などにおいて異なる。

●誘発突然変異メダカ
 近交系ヒメダカHO4Cを出発材料として、雄成魚の放射線照射および化学物質処理による誘発突然変異が約30系統収集されている。変異系統の収集は現在も続行中である。変異系統の大部分は形態形成と行動(遊泳)に関わる劣性致死突然変異である。その詳細は近いうちに論文発表される予定である。すでに公表されたものは、脳軸が屈曲するものなどを含めて4種ある(文献、2、3)。系統は上述のようなペア飼育または、ヘテロ雄精子凍結保存により維持されている。

(2)系統保存の組織、設備
 近交系メダカは放射線医学総合研究所の支援と研究者1名および研究支援者数名の努力により、個体の雄雌ペア交配飼育で維持されている。突然変異についてもペア飼育あるいは、ヘテロ雄精子凍結保存により維持されている。飼育場所は温度管理された人工照明下の屋内施設(約150m2)と屋外の池(約150m2)である。

(3)系統の開発方法、保存方法、利用方法保存方法:
系統は上述のようなペア飼育あるいは、ヘテロ雄精子凍結保存により維持されている。

 利用方法:正式な分譲サービスは組織制度として確立されていない。しかし、研究目的であるならば、国内外をとわず無償で分譲している。分譲のための用務すべては、研究者が自らの研究時間をけずってサービスしているため、受精卵の郵送という簡便な方式で 配布している。突然変異についても既公表のものについては、同様にして分譲している。

(4)分譲依頼方法
近交系メダカおよび誘発突然変異メダカ
連絡先:〒263-8555千葉市稲毛区穴川4ー9ー1
放射線医学総合研究所生物影響研究部 石川裕二
Tel:043ー206ー3085、FAX:043ー 255ー6497
E-mail:ishikawa@nirs.go.jp
料金:無料.
メダカホームページ(文献4)に情報あり、
カタログなし、受精卵の郵送を原則としている。
電話ではなくFAXによる依頼が望ましい。


3.自然突然変異を中心にした系統保存:名古屋大学生物分子応答研究センター
(1)系統保存の種類・数量

●自然突然変異系統
 旧理学部淡水魚類系統保存実験施設から引き継いだ、100系統の日本メダカの自然突然変異を保存している。これらの中には、約70年間にわたって維持されてきているものや、故山本時男博士によって1947年に作出され、性の決定機構の研究で世界的に有名になった、雌の体色が白く、雄が赤い「シロアカメダカ」といった系統もある。大半は故富田英夫博士によって、1960年代以降に野生集団や市販ヒメダカの交配の過程で発見、樹立されたものである。すべて自然突然変異で、その内訳は、60%が体色に関するもの、30%が形態に関するもの、10%が行動に関するものである。ほとんどが劣性遺伝子の突然変異であるが、ホモ接合体で生存可能である(保存系統のリストは文献5とメダカホームページ(文献4))。

●トランスジェニック系統
京都大学木下政人博士によって作出された3種類のGFP導入メダカの系統化を行っている(図1)。このような遺伝子導入メダカの系統化は先端的技術による新しい遺伝子資源の保存として注目される。

(2)系統保存の組織、設備
 組織:教官1名、技官1名、非常勤職員1名。
 設備:野外圃場800m2に1、5m角タンク400個、屋内飼育室90m2に自動飼育装置20台に500個の水槽を設置している。

(3)系統の開発方法、保存方法、利用方法
 保存方法:これらの系統はすべて、閉鎖集団として、1系統につき100〜200個体が野外飼育場の2〜3個の水槽に分けて飼育されている。近い将来、精子の凍結保存によっても保存する予定ある。一部の系統は室内の人工的な環境でも飼育されている。

(4)分譲依頼方法
 国内だけでなく海外からも、分譲の希望が多数寄せられている。すべて無償である。トランスジェニックについては現在準備中である。

 問合せ・申込先:〒464-8601名古屋市千種区不老町
名古屋大学生物分子応答研究センター純系動物開発研究分野
若松佑子
TEL:052-789-4294、FAX:052-789-5053


4.O. latipes近縁種(アジア種)を中心にした系統保存:信州大学理学部生物科学科

(1)保存系統の種類・数量
 信州大学では故宇和紘教授がが東南アジアから精力的に蒐集した数多くの系統が保存されていたが,最近,これらの系統を研究対象とする研究者が無く,その維持が岐路に立たされている.保存している機関の研究者がこれらの系統を研究対象としているときはさほど問題を生じないが,研究者が居らず,また,何時それらを材料とする研究者が現れるか明らかでないとき,その維持はボランティア活動となる.実験動物の系統は国内だけでなく世界中の研究者の財産でもある.それらの維持に当たってそれぞれの機関は並々ならぬ努力を払っていることと思う.この様に重要な系統保存を不安定なボランティアに依存するのではなく,組織的にこれに当たる必要があり,保存のための設備,予算および人員確保を国に働きかけていく必要がある.

●O. latipes近縁種(アジア種)
種名、産地(州名,国名、大まかな尾数)を記載。
1)O. melastigma Chidambaran, Tamil Nadu, India    (15)
2)O. javanicus Tamaanroya, Sulawesi, Indonesia Singapore (>100)
3)O. minutillus
 Bangkok, Thailand (>100)
 Chiang Mai, Thailand (>150)
 Chumphon, Thailand (>50)
 Pak chong, Thailand (>50)
 Rayong, Thailand (>50)
 Chai Nat, Thailand (20)
 Saraburi, Thailand (>20)
 Ratchaburi, Thailand (>30)

4)O. mekongensis
 Si Sa Ket, Thailand (>50)

5)O. latipes
 Naa-ri, Korea
 Yunghwa-ri, Korea
 Tangam-ri, Korea (4)
 Pojon-ri, Korea
 Myongsan-ri, Korea
 Hwajon-ri, Korea

6)O. latipes sinensis Shanghai, China
 Beijin, China
 Kunming, China (2)
 Dali, China
 Nae-ri, Korea
 Chodong-ri, Korea

7)O. curvinotus
 Hong Kong (>20)

8)O. luzonensis
 Solsona, Philippine (>60)

9)O. celebensis
 Ujung Pandang, Sulawesi, Indonesia  (>20)

10)O. nigrimas
 Lake Poso, Sulawesi, Indonesia    (>50)

11)O. matanensis
 Lake Matano, Sulawesi, Indonesia   (>20)

12)O. marmoratus
 Lake Towuti, Sulawesi, Indonesia   (>50)

13)O. profundicola
 Timampuu, Lake Towuti, Sulawesi,  Indonesia (10)

●地方集団、スワメダカ (50)、その他、近交系、自然突然変異系統

(2)系統保存の組織、設備
 組織:教官3名、行II職員1名(学務係と兼任)
 設備:温室2(角7m2、冬季は加温しているが、不十分なため投げ込みヒーターを併用)、温室1(23m2、加温設備無し)、コンクリート水槽8個、プラスチック水槽128個。

(3)分譲依頼方法
 問合せ・申込先:〒390-0802 松本市旭3ー1ー1 
信州大学理学部生物学科 小野里坦
   Tel.0263-37-2497 FAX.0263-37-2560


III.今後の展望

 メダカの系統保存の現状がこのような形でまとめられたのは実はこれが初めてである。ここで明らかになったのは実に多様な系統が研究者個人の努力によって、辛うじて保存されていることである。そこから見えてくるのは

1)系統保存のための予算、人員、施設の絶対的貧困である。それらが充実されなければ、メダカの系統保存は近い将来消滅せざるを得ない、

2)これまでの系統保存は収集したものは捨てないで保存するという精神によっている面が少なくない。これはこれで貴重であるが、保存できる規模に限界がある以上、今後は目標を明確に定めた系統保存が必要なのではないか、

3)そのためには保存に携わっている研究機関の有機的な連携が実現される必要がある、

などのことである。本稿のために各研究機関での系統保存についてメモを頂いた東京大学嶋昭紘、島田敦子、新潟大学酒泉満、放医研石川祐二、信州大学小野里坦、高田啓介、柴田直樹の諸氏に感謝いたします。

文献

1)Hyodo-Taguchi, Y.:The Fish Biology J.Medaka, 8, 11-14(1996)
2)Ishikawa,Y., Hyodo-Taguchi,Y.:The Fish Biology J. Medaka, 7, 47-48(1995)
3)Ishikawa, Y.:Neurosci. Res., 24, 313-317(1996)
4)「Medakafish」ホームページ http://biol1.bio.nagoya-u.ac.jp:8000/
5) Tomita, H.:The Fish Biol.J.Medaka 4,45-47(1992)

その他、系統に関する参考書:

江上信雄、山上健次郎、嶋昭紘(編):メダカの生物学、東京大学出版会(1990)
岩松鷹司著:メダカ学全書、大学教育出版(1998)

V. 図の説明

(上)メダカペプチド鎖伸長因子1αーGFPを導入したF1、(下)メダカβーアクチンーGFPを導入したF1(木下政人原図、投稿準備中)