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メダカとカダヤシの種間関係
−高校生の研究活動の御紹介−
山口県立厚狭高等学校
児玉伊智郎
1.はじめに
メダカが減少し絶滅が危惧されているのに対し、蚊を駆除する目的で海外から移入された卵胎生メダカのカダヤシ(Gambusia affinis)は分布を拡大し、関東や沖縄ではメダカからカダヤシへ遷移しているという報告がある1)。山口県内にも両種が分布することを知り、本校生物部の生徒たちと両種の分布や種間関係について調査した。研究内容はまだまだ稚拙であり本誌に投稿するには不十分だが、生徒の活動の様子を御紹介するという点では意味があるかとも思い、研究の一端と生物部の活動について述べさせていただく。
2.研究内容について
(1)山口県内のメダカとカダヤシの分布状況2)
1999年〜2000年に山口県下全域で両種の分布調査を行った結果、メダカは海岸沿いのほとんどの市町村、50地点で生息を確認した。これに対し、カダヤシの生息地点は8地点のみであった。カダヤシの生息地点のうち、6地点においてはメダカとカダヤシが一緒に捕獲された。山口県にカダヤシが移入され約30年経つにもかかわらず、カダヤシのみが生息しメダカが駆逐された可能性がある場所は県下に2地点しかなく、メダカからカダヤシへ遷移してはいないという結果が得られた。このことから、カダヤシがメダカに対して一方的に優位であるとはいえないことが示唆された。
(2)野外における個体数の変動2)
カダヤシは北アメリカ南部の原産であり、山口県の冬期の低水温に対しては大きなダメージを被るのではないかと考えられた。そこで、両種が混泳するある地点で、個体数の変動を調べた。結果は予想に反し、低水温期でもカダヤシの割合は減少せず、むしろ、夏期にメダカの方が多くなる傾向があった(図1)。理由として、メダカとカダヤシの分布には偏りがあり、調査した地点は偶然夏にメダカが多い場所であった可能性を考えた。そこで、この用水路の上流域から下流域まで調査したところ、場所によって両種の分布は大きく偏っていた。さらに、メダカは植物性(緑藻類)のものを中心に食べ、カダヤ シは動物性(ボウフラなど)のものを中心に食べていた。胃の内容物の違いについては、両種が混在する場所でも単一の種しか存在しない場所でも同様であり、もともとメダカは植物性のものを好み、カダヤシは動物性のものを好むことが示唆された。これらの野外調査の結果から種間競争は緩和されていると思われ、実験室内で人為的にストレス条件を与えて両種の生存力や繁殖力についても研究し、多方面から検討した。

(3)低温・高温条件下での共存2)
実験(2)の野外調査では、両種の温度耐性に関して顕著な傾向は見られなかった。そこで、25℃と5℃に保った水槽を用意し、それぞれの水槽に両種の雌雄を10匹ずつ入れて混泳させ、生存個体数の変化を調べた。
水温が5℃の条件下では、カダヤシは行動が鈍り死んでしまった(図2)。25℃の条件下ではカダヤシが活発に泳ぎ回り、メダカを突っついて全滅させてしまった(図3)。原産地から予想されたとおり、メダカの方が低温耐性が高かった。逆に、高温条件下ではカダヤシの方が種間競争において優位であることが推測された。


(4)遊泳力の比較2)
河川での分布拡大の優位性を検討する為に、図4のような装置を作成し、両種の最大遊泳力を比較した。
実験は、水流0 cm/sの状態から徐々に流速を速め、各個体が押し流されるまでの流速を記録した。両種とも雌雄各10個体で測定し、計測値を平均化して最大遊泳力とした。その結果、メダカの遊泳力は32.8 cm/sと、カダヤシの20.0 cm/sに比べて優位であった。

(5)耐塩性の比較2)
汽水域での分布拡大の優位性について調べる為に、塩存在下での生存力と繁殖力について検討した。
実験は、水槽に1/3濃度の人工海水を入れ、自然に水分を蒸発させながら生存個体数を計測した。海水と等濃度達するまで160日間を要したが、両種とも80%以上の個体が生存し、成体における耐塩性には大きな差がないものと思われた(図5)。ところが、両種の繁殖力には差が生じた。海水と等しい濃度の人工海水中で産卵されたメダカの卵の一部は稚魚まで発生が進むのに対して、カダヤシが生んだ仔魚(カダヤシは卵胎生のため卵ではなく仔魚を産む)はすぐに死滅した。この結果と上記(4)の結果を考え合わせると、メダカの方が河川の広い範囲に適応できることを示唆している。

(6)種間関係のまとめ
低温や遊泳力に関してはメダカの方が優位で、高温や汚水中での繁殖などについてはカダヤシの方が優位であった。また、分布の偏りや食性の違いなどにより、両種間の競争は緩和される傾向があった(表1)。山口県内でメダカからカダヤシへ分布が遷移していないのは、メダカにとって優位な環境条件が保たれている為であり、他県で報告されているカダヤシへの遷移は、カダヤシにとって優位な環境条件へ推移していることによるものと考えられる。

3.生物部の活動について
(1)野外調査と室内での実験
メダカは水田周辺の用水路などの身近な場所に生息しており、フィールドワークを安全に行うことができる。また、小型で飼育も容易であり、専門的な知識がない高校生でもメダカを用いて実験をすることができる。フィールドワークと室内での実験観察の双方を活動に取り入れることで、生徒に、多方面から自然や生物にアプローチする経験をさせることができた。
(2)長期間に及ぶ観察を通じて結論を出す大切さ
穴の空いたセパレーターで仕切った同じ水槽に両種を分けて入れ、餌を与えるが水換えをせず徐々に水質が悪化する状態で飼育した。水質が悪化する中での生存個体数の変化が両種ともほぼ同じであったことから、「水が富栄養状態になっても、メダカやカダヤシに与える影響に差はない。」と思われた。ところが、観察を継続したところ、汚水中でもメダカは産卵し、カダヤシは仔魚を出産した。産卵されたメダカの卵はすぐに腐敗してしまうのに対して、カダヤシの仔魚の中には育つものがおり、汚水中での繁殖についてはカダヤシの方が優位であると考えられた。これらの経験から、結果を焦らず時間を掛けて慎重に結論を出す大切さを感じ取ったようである。
(3)学会発表を経験した生徒の変化
山口県には山口生物学会という学会がある。学会をお世話されている山口大学の先生方からお誘いを受け、論文の投稿や口頭発表に参加させていただいている。高校生が学会に参加すると御迷惑をお掛けして恐縮することも多いが、高校生にとっては大変よい経験になる。難解な研究発表でも科学的なおもしろさは感覚的に伝わるようで、熱心に聴き入ることが多い。また、高尚な科学を論じる場に背伸びをして同席させていただいているという雰囲気は高校生にやる気を起こさせ、自分たちの研究にも主体的に取り組むようになった。
学会で貴重なアドバイスをいただくことも多い。平成11年に山口生物学会で「野外のメダカとカダヤシの消化管の内容物」について発表した際、「食性が違うならば、植物性の物を食べるものは消化管が長く、動物性の物を食べるものは短いはず。」と、教えていただいた。早速、生徒が両種の消化管の長さを調べたところ、カダヤシの消化管はメダカよりも短かく、両種の食性の違いを裏付ける結果が得られた。なお、日本動物学会第71回大会(平成12年)の高校生ポスター発表にも参加させていただき、研究の進め方やデータの解釈の仕方について御指導賜った(図6)。

4.おわりに
通常の授業に比べ、部活動では場所や時間の制約が緩和される。この利点を生かせば、長時間の研究活動を通して初めて分かる、研究の本質的な醍醐味や面白さを生徒に体験させることが可能であろう。生物部の活動を重要な理科教育の場として捉え、生徒の育成に努めたいと考えている。
メダカとカダヤシの種間関係については「第39回下中科学研究助成金」をいただき現在も研究を継続しています。また、生物部の指導に対して「平成12年度東レ理科教育賞」をいただきました3)。関係機関に対し、この場をお借りして深く感謝申し上げます。
5.参考文献